戸田奈津子さんのBuzzFeedインタビュー記事を読みました
BuzzFeed News 20170104「戸田奈津子さんの語る字幕翻訳の裏側」
ドラマや歌詞の字幕作り、毎回悩みます
私が初めてミノの作品に字幕をつけたのは2016年の12月、約9ヶ月前。
その少し前、10月から韓国でドラマ「青い海の伝説」が放送され、あらすじを書くために何度も録画を見直して、英語字幕からセリフを起こしていました。
あらすじを20話分書き終えて、余裕ができた時、長いのは無理だけど、このシーンだけならセリフを字幕にできるかも?と思ったのが字幕つけの始まりでした。
その時につけた字幕はこちら。
1分というほんとに短いものですが、一生懸命作った記憶があります。
それ以来少しずつシーンに字幕をつけてきましたが、悩みはつきません。
そんな中、今日ある記事を読む機会があり、みなさんにも紹介したいと思いここに引用させていただくことにしました。
BuzzFeed Newsより【インタビュー】字幕翻訳者・戸田奈津子
「エッ?と思う字幕は、どこかおかしいの」
40年にわたって第一線で活躍している戸田奈津子さんの字幕翻訳論。
その中から印象的な部分を抜粋しています。最後に記事の全文が読めるリンクを添えています。
戸田さんの出発点
「英語じゃないのよ、映画よ。最初からそれしかない。映画が好きだから英語を勉強したわけで、英語そのものが好きな人間ではないのです。ボーナスで英語を勉強したっていうだけ。映画がすべての始まりでした」
私も、ただひたすらミノのセリフを聞いて理解したい、それだけで翻訳し始めました。きっと、韓国ドラマにハマって同じように韓国語を勉強し始めた方がたくさんいることと思います。
言葉は生き物
40年近く字幕翻訳をしてきている戸田さんだが、仕事を始めた当初と今では、観客が使うことばが変わっている。
「日本語はとにかく、もちろん英語も変わりますよ。言語は必ず毎日変わっていく、どの言語もね。だけど日本語は一番、新陳代謝が激しい」
前に辞書を作っている方のエッセイを読んだ時にも、全く同じことを言われていたのを思い出しました。
言葉は生き物なんですね。
「たとえば2016年に流行した『神ってる』を字幕に使ってごらんなさい。5年後には誰もわかりません。DVDで10年、20年残るのに、20年先に『神ってる』と字幕で出たら?誰もわからないでしょ」
映画によっては使う例外もあるが、その場合はDVD版の字幕を作るときに修正するという
ネットで広がる誤訳批判。そして『ロード・オブ・ザ・リング』騒動
戸田さんが字幕翻訳を担当した『ロード・オブ・ザ・リング』『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』は、原作に忠実ではないという批判が相次いだ。原作ファンを中心に、ネットで字幕修正や字幕翻訳の交代を求める署名活動が起きる騒動となった。
戸田さんは「言い訳や昔の話をしたくない」と最初に断りを入れながら『ロード・オブ・ザ・リング』騒動についてこう説明する。
「抗議をした方々は、数十年前の本の翻訳を聖書と思っているわけ。数十年前の翻訳ですよ?日々変わる言葉が、その間にどれだけ変化するか。今の観客が違和感を抱かない字幕にするのが当然じゃないでしょうか」
この記事もその当時、映画を見ていたので記憶にあります。
原作に忠実でない、間違ってるとの声が上がっていました。
けれど戸田奈津子さんは当時も毅然としておられました。
当時私は字幕付けがどんなに大変かなんて、これっぽっちも考えたことはなく、スルーっと聞き流していたと思います。
字幕つくりの裏側で
字幕をそもそもどう作っているのか、戸田さんは著書に綴っている。
かたや練りに練ったシナリオのせりふがあり、かたや観客の映画鑑賞の邪魔にならない限度の字数がある。その中間には必ずどこかに、限りなく原文に近く、しかも字幕として成り立つ日本語があるはずである。細い細い線のうえに、その線を綱渡りのようにたどってゆく努力が、字幕づくりの基本である。(「字幕の中に人生」より)
また、映画字幕の翻訳は、書籍の翻訳と大きく違って制約がある。1秒に3〜4文字。14文字x2行以内のセリフ。ごく限られた字数で、字幕翻訳者はセリフの内容を観客に伝えなければいけない。
この辺りは、太田直子さんの「字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ」という本を紹介した過去の記事の中でもお話ししました。(リンク後述しています)
文法そのままに忠実に訳すとヘンテコになり、そんな言い回し実際には日本語であり得ない!となることもあります。
それでそこは私の感覚で意訳することになります。
ですから素人の私が意訳するのと、センスある翻訳家さんが字幕をつけるのとでは天地の差が出てしまうのも然り。
その辺りを汲んでいただいて、ゆるく、楽しんでくださると嬉しいな〜と思っています。
理想の字幕とは
戸田さんにとって理想で素晴らしい字幕とはどのようなものか。
「お客さんが字幕のことなんて考えずに、あたかも登場人物が全部自分のわかる言葉でしゃべってたって誤解するぐらい、違和感なくスッと頭に入る。それが一番良い字幕だと思います」
「映画を観ている途中で、字幕に意識が行くのは、その字幕に何か引っかかるものがあるからです。エッ?と思う字幕は、どこかがおかしいの」
戸田さんは "Goodbye" という言葉を例に挙げて説明する。「アメリカのサラリーマン家庭があって、お父さんが "Goodbye" と言って家を出て行く」
「『さよなら』って訳したら、日本人にはお父さんが家出するみたいに思えます。日本では『いってきます』と訳さねばならない。原文と違うけど、それは誤訳ですか?」
「これは、極端な例です。しかし、実際のセリフにはもっと微妙なレベルで、制約上、同じような意訳をせねばならない場合が数多くあります」
これは、簡単な韓国語で言うと、韓国では挨拶の際「あんにょん안녕」 を朝昼晩いつでも使いますが、日本語では「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」と使い分けることに通じると思います。
戸田さんは「限りなく原文に近く、しかも字幕として成り立つ日本語」という細い線の上で「ベストを尽くしている」と話し、これを理解せずに誤訳批判するのは "誤解" だと説明する。
「最近、批判を恐れて直訳に近い字幕を見ることもありますが、そのような字幕は長すぎて、絶対に読みきれない。観客は『字幕を読みきる』ことに意識が割かれ、せっかくの画面を見損なっている。それでは何のための映画鑑賞なのでしょうか。映画は『字幕を読みに行く』ためのものなのでしょうか」
そして最後に
エンドロールに流れる「字幕翻訳・戸田奈津子」のクレジット。これを見る観客に思って欲しいこととは。
「映画が楽しかったと思ってくれればいい。観客が『あー、良い映画を観た。楽しかった』と思ってくれれば、字幕は目的を達していると思います」
楽しむこと、一番大切なことですね。
まだまだ修行中、頑張ります。
※全文記事リンク
※過去記事 本の紹介 太田直子著「字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ」はこちら
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